- ケイティ
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製造物責任法(PL法)は知っているけど、自分には関係ないと思っている経営者の方も多いのではないでしょうか?
製造物責任法は主に製造・加工・輸入を行う事業者が対象ですが、知らぬ間に事故が起きて訴訟を起こされたら恐ろしいですよね。
実は、製造物責任法はかなり多くの事業に当てはまる法律です。他人事だと思っていても、ある日突然訴訟を起こされることもあり得ます。
どんなに注意深く製造・加工・輸入などをしていても、「100%の確率で欠陥品を出さない」というのは現実的ではないからです。
そこで今回は、製造物責任法についてまずは概要を解説し、事故を起こさないための対策をご紹介します。併せて訴訟が起きた実例もご紹介しますので、参考にしてください。
製造物責任(PL)法とは
製造物責任法は、消費者が製造物の欠陥よる事故で損害を受けたとき、製造業者等に故意・過失がなくても消費者に対して、民事上の賠償責任を負うことを定めています。製造物責任の英訳「Product Liability」の頭文字から、「PL法」とも呼ばれます。
製造物責任(PL)法を押さえておくべき業種と所管について
製造物責任(PL)法の該当に関しては詳しく後述しますが、読者の対象を明確にするために、この法律を押さえておくべき業種をまずは記載します。
【食料品製造業者】:缶詰・弁当・菓子・冷凍食品・小麦粉・調味料などの食品を製造する業者
【飲料製造業者】:ビール・焼酎などのアルコール飲料や、ジュース・お茶などの飲料を製造する業者
【家具・装備品製造業】:木製家具・金属製家具などの家具・装備品を製造する業者
【パルプ・紙・紙加工品製造業】:紙皿・紙コップ・生理用品などを製造する業者
【金属製品製造業】:ネジ・メッキ・ドラム缶などの金属製品を製造する業者
上記のような、製造業者が製造物責任(PL)法と関わり合いがあります。
製造物責任(PL)法の所管は消費者庁になりますので、新しい法律の改正はないか適宜動向を追うようにしましょう。また、法律違反をしてしまうと、損害賠償だけでなく企業としての信頼度が大きく下がってしまいます。
それによって、売上が順調に伸びていた企業であっても、思わぬところで足元をすくわれる事態に成り兼ねませんので、下記をしっかり読み進めていただければと思います。
「製造業者等」の意味と具体例
製造物責任・損害賠償責任を負う「製造業者等」とは、以下を指しています。
・該当する製造物を業として製造、加工、輸入した者(製造物責任法2条3項1号)
・該当する製造物の製造業者として、氏名、商号、商標などその他の表示をした者(製造物責任法2条3項2号前段)
・該当する製造物に対して、その製造業者と誤認させる表示をした者(製造物責任法2条3項2号後段)
・製造物の製造等に関わる形の状態事情からみて、該当する製造物の実質的な製造業者と認められる氏名等を表示した者(製造物責任法2条3項3号)
結構ややこしいですが、簡単にまとめると
・事業として製造物を製造または加工、輸入している(製造業者・加工業者・輸入業者)
・製造業者として自ら表示している
・製造業者と思わせる表示をしている
・同じ製造物の製造業者として広く知られている
などが当てはまると言えるでしょう。
特に注目したいのが「輸入業者」についてです。海を越えて製造物責任を求めることは難しいため、国内に輸入した海外の製造品に対する製造物責任は「輸入業者」にあります。
「製造物」の意味と具体例
製造物責任法に度々でてくる「製造物」とは、製造または加工された動産(製造物責任法2条1項)を指しています。機械だけではなく食品も含まれるのが特徴です。
ただし、無形エネルギー(電気・電磁波など)やソフトウェア、情報は製造物には含まれません。未加工の自然産物(農畜産物、水産物、狩猟物など)も同様です。
例)車、自転車、家電、窓ガラス、ドア、缶詰、菓子、冷凍食品、小麦粉、食用油など
「欠陥」の意味と具体例
欠陥とは「本来あるべき安全性が欠けている状態」を指します。(製造物責任法2条2項)。
欠陥の有無については、以下の内容を考慮して「製造上」「設計上」「表示上」の3段階で本当に安全性に問題がなかったのか、正確な情報を確認するのがポイントです。
・製造物の特製
・通常の範囲で予測できる使用状況
・製造業者等が引き渡した時期
・該当する製品に関するその他の事情
例)設計自体に問題があった、製造・管理工程に問題があった、使用上の指示や警告が不十分であった
「拡大損害」の意味と具体例
欠陥が原因で生命、身体、その他財産に損害を受けた場合を「拡大損害」と言います。「製造物の損害以外で発生した損害」を示しているのがポイントです。
例)加工食品に混入していた異物で口の中が切れた、パソコンが発火して家具や壁が焦げたなど。
「引き渡した」の意味と具体例
損害賠償を求めるにあたって、「引き渡した」という意味を確認することは、とても重要なポイントです。「引き渡した」とは、製造物の無償・有償に関わらず、製造業者等が自身の意思によって占有を移転したことを示しています。
例)盗難品は製造業者等の意思で相手側の手元に渡ったわけではないため、上記に該当しません。
製造物責任(PL)法の対策
製造業者等にとって、製造物責任法は見て見ぬふりのできない法律と言えます。なぜなら、どんなに注意深く製造・加工・輸入などをしていても、「100%の確率で欠陥品を出さない」という状況を作るのは難しいからです。
製造業者等である限りは、一定の欠陥製造物があることを前提に「危機管理を徹底する」ことが望ましいでしょう。
対策①担当者・担当部署を決めておく
欠陥製造物の報告があがった時点で迅速に対応できるよう、担当者と担当部署を事前に決めておくのがおすすめです。
実際に欠陥製造物が出た場合、所轄庁への報告やリコール対応など、消費者以外への対応が発生します。会社への損害を和らげるためにも、素早い対応力が必要です。
対策②欠陥製造物の情報を保管しておく
欠陥製造物の情報は廃棄せずに、保管しておきましょう。同種欠陥の発生時に活用することで、より迅速な対応を図れます。
対策③マニュアルを完備しておく
欠陥製造物に対して、どんなときでも誰もが柔軟に動けるよう、マニュアルを作成しておきましょう。社内・社外・消費者と、それぞれに適したマニュアルを用意しておくことで、担当者による対応の差を埋められます。
対策④PL保険に加入しておく
製造物の欠陥が原因で会社に大きな損害が発生した場合を想定して、生産物賠償責任保険(PL保険)に加入しておくのもおすすめです。
製造物責任(PL)法に基づく対応
実際に欠陥製造物の損害報告があがったとき、会社としてどのような対応をするべきなのでしょうか?
故意・過失問わず責任を問われる製造物責任法ですが、「消費者に対して抗議することは可能なのか」より具体的な対策についても気になるところです。
対応の流れ
欠陥製造物の損害が発生した場合、なによりも迅速な対応が欠かせません。
Step1:素早い事実関係の確認
製品種別、製造時期、流通先など、欠陥した製造物の情報を集めます。ほぼ同タイミングで被害者の人数や連絡先、損害内容を正確に判断しましょう。
Step2:所轄官庁への報告
欠陥した製造物の流通が確認でき次第、所轄官庁へ報告します。報告をしないままでいると、報告違反として罰則が発生する可能性があります。
Step3:被害者への賠償・お詫び
事実関係が確認でき次第、被害者への賠償および謝罪を検討します。ここまでの対応に遅れが生じた場合、被害者が訴訟を提起する可能性が高まるので注意が必要です。訴訟の提起後は、高額の賠償義務が発生するケースもあります。
抗議できる手段
製造業者等は「抗弁の主張・立証」によって、製造物責任法を否定することができます。
①開発危険の抗弁
製造物を引き渡した時点で、科学的または技術に関する知見によって認識できなかったことを証明・立証します。
②部品製造業者の抗弁
製造物が別の製造物の部品もしくは原材料だった場合、他の製造物の製造業者が行った設計に従った製造・加工であり、欠陥に対して過失がないことを証明・立証します。
製造物責任(PL)法に基づく「損害賠償責任」
製造物責任法に基づく「損害賠償責任」では、消費者が以下2つの事実を証明しなければなりません。
1.欠陥のある製造物だった
2.拡大損害が発生した
ただし、製造物の欠陥による被害者または法定代理人は、上記事実を知った時から3年間以内に製造業者等に損害賠償請求しなければなりません。
3年を超えたものに対しては時効が成立し、損害賠償責任は消滅します。さらに、引き渡しから10年を超えている場合も同様に請求を実行できません。
製造物責任(PL)法の訴訟事例
最後に、製造物責任法の訴訟実例をご紹介します。
事例①大津自動車事故負傷事件
自動車の衝突事故について、同自動車の運転者及び所有者が、本件自動車の製造業者に対しては製造物責任としての損害賠償を求め、自動車販売業者に対しては整備上の過誤があったとして損害賠償を求めた事案
【争点】
①本件自動車の走行中に異常が発生したか否か。
②ナット等が本件事故当時に本件自動車から脱落していたか否か。” “①本件自動車の走行中に異常が発生したとは認められない。
【結果】
②ナット等が本件事故当時に本件自動車から脱落していたとは認められない。
事例②輸入瓶詰オリーブ食中毒事件
レストランにおいて瓶詰オリーブを食した客らがボツリヌス中毒にり患したため、客の1人がレストラン経営者及びオリーブ輸入会社に対し、債務不履行又は製造物責任法に基づき(第1事件)、レストラン客及びレストラン経営者らが、輸入会社に対し、製造物責任法に基づき(第2事件)、レストランが、輸入会社に対し、製造物責任法に基づき(第3事件)、損害賠償を求めた事案。
【争点】
①本件オリーブから検出されたB型ボツリヌス菌及びその毒素は、本件瓶の開封前から存在していたのか、本件瓶の開封後に混入したのか。
②レストラン経営者の注意義務違反の有無。
【結果】
①酸素があると増殖できないかあるいは死滅するというボツリヌス菌の特徴や、本件オリーブから検出されたB型ボツリヌス菌は我が国ではほとんど検出されていないことなどを考慮すると、本件オリーブから検出されたB型ボツリヌス菌及びその毒素は、本件瓶の開封後に混入したものではなく、本件瓶の開封前から存在していたものと推認するのが相当であり、本件オリーブは、食品として通常有すべき安全性を欠いていたといえる。
②レストラン経営者は一応の注意を払った上で本件オリーブの提供に臨んだことが認められ、レストラン客はレストラン経営者の注意義務違反を基礎付ける具体的事実について、何ら主張立証していないから、注意義務違反は認められない。
まとめ:製造物責任法(PL法)とは?対策や対応の流れについて
製品に対して、「製造上」「設計上」「表示上」の安全性を確保し対策してください。
事故が起きた場合、企業は賠償責任負うことになるので保険に入りカバーすることが大切です。
そして、被害の拡大を避けるためにも、できるだけ早く所轄庁への報告やリコール対応を素早く行う必要があります。すぐに対応できるように従業員の意識強化も徹底していきましょう。
※専門性の高い記事になりますので、ライターである佐藤がこの記事を作成致しました。